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異世界ラウンジ

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異世界、今の人々が、今いるところが自分の世界との認識の中で、異なった世界に存在する人々、種族のことを、異世界人と呼ぶ。

エルフ、ヴァンパイア、ピクシー、獣人など、様々な種族が存在する世界が、そこにあった。

まだ、異世界人の存在が人々に認知され始めて間もない時、地球のとある街の片隅のお店にだけ起きた奇跡の物語である。

ここは、夜の街。
舞台は地球。西暦3800年12月。
国という国の境がなくなり、異世界とのゲートが開き、様々な種族が共に暮らす、平和な世界が訪れていた。
そんな中、一つの街の様々な飲み屋や娯楽施設が立ち並ぶ歓楽街の中の一角。
あるスナックビルの一階の奥に、会員制と書いた重厚な扉が存在する。
そこは、一風変わったオーナーが経営する、少し変わったキャスト達が揃う店。
そこに通う人々は、口々にその店のことを
『異世界ラウンジ』と呼ぶ。
なぜなら、ここのキャストは、全て人間とは違う、違う種族の女性の店だからである。

カランカラン。
店のドアが開き、ドアにつけられている、来客を知らせる鐘がなる。
食材とお酒を持った長い黒髪を後ろで結んだ、一人の男が慣れた風に、お店に入ってくる。
「オーナー、いる?」
と、来店してきたこの男、
名は才前印(さいぜんいん)アヤト
元No1ホストだがそんな雰囲気は一切感じられないが、その界隈では有名な存在である。

そんなアヤトにトコトコと近寄って来る可愛らしい女性がいる。
アヤトに近づくなり
「おかえり~、アヤト~」
と笑顔で出迎えるこの女性、
名は、『ヘレン・アイナ』
種族は、サキュバス。人間年齢で言うと、23歳(種族年齢23歳)である。
この異世界ラウンジのNo.1キャスト。

そんなアイナに対してアヤトは
「おう、ただいま~アイナ。今日も可愛いなぁ」
といつも通りの返事を返し、頭に手を置く。

その言葉や言動にアイナは
「えへへへへ♡」
と可愛らしい笑顔で、アヤトの腕を掴む。

アイナにアヤトが
「ハルマ居る?」
と聞いた時に店の奥から、
「おっ、アヤトか。お疲れさん!厨房にいて手が離せないから入ってきてくれ」
と声が聞こえてくる。

アイナにアヤトは、
「行ってくるわ」
と一声かけ、アヤトが厨房に入って行く。

「よっ、ハルマ。お疲れさん。」
と、声をかけるアヤト

「アヤト、お疲れ!いつも通り、疲れた顔してるなぁ」
厨房で作業をしているこの男、
この異世界ラウンジのオーナーでもありコックでもある、
名は、『桜樹(さくらぎ)ハルマ』
このハルマは、趣味が女性鑑賞と料理である。
その趣味を活かせる店、綺麗な女性を見ていられる店と料理ができる店を一緒にするコンセプトから、ラウンジで料理を出すという、一風変わった店が出来上がった。
このハルマ、女性好きではあるが、決して、手を出さない変わり者。
口癖は、『女性は大切にしないといけない!横に居てくれるだけで、素晴らしい存在だ!』らしい。
ハルマに取れば、女性は、全て愛でる対象である。

そんなハルマの反応に、
「ほっとけ!」
と返事を返すアヤトである。

毎度おなじみのやりとりを終えた後にアヤトが
「持ってきた食材は、どこに置く?」
と袋を掲げる

ため息をつきつつハルマが
「だから持ち込みはダメだって言ってるだろ」
と言われるがアヤトは聞く耳を持たず
「いいから、いいから。とりあえずここに置いておいたらいいな」
と食材と酒を置く

「で、今日は何を持ってきたんだ?」
と、ハルマが今日の食材をアヤトに聞くと
「今日は塊肉を持ってきてやったぞ!」
と自慢げに中身を見せるアヤト

そんなアヤトを見てハルマは
「いつもありがとうな。とりあえず何か作るわ。で、酒も持ってきてるんだよな」
と、感謝半分呆れ半分で言うが、ハルマは、内心いつも楽しみではある。
「一緒に飲むだろ?」
と笑顔のアヤト

「飲めないの知ってて言ってるだろ。ただ、お前が飲みたいだけだろ」
もはや呆れ顔のハルマ。
なぜなら、このような店をやっているが、ハルマは一滴も飲めない、いわゆる『下戸』なのだ。
もはや、弱いなんてものじゃない、数ミリ飲もうものなら、使い物にならなくなるレベルである。

「アイナ~!いる?」
ハルマが、厨房からお店の方に声をかける。

「終わった~?」
呼ばれたアイナは、待ってましたかのようにドアの隙間から顔をだす。

「アイナ、そこにいたのか。気を使わず、入ってくればいいのに』
ハルマが言うと同時にアイナがトコトコトコとドアを開けて入ってくる。

「な~に~?」
アイナがハルマに問いかける

「アヤトをカウンターに案内してくれ」
そうハルマがアイナに頼む。
アヤトが、
「なにか手伝わなくてもいいのか?」
とハルマに聞くと、
「いいよ、客なんだから座ってて。料理ができたら持っていくから」
とハルマが言う
アヤトが
『今更、客(笑)思ってもいないくせに(笑)』
と笑いながらツッコムと、ハルマが、
『一応、体裁上だよ(笑)ほぼ、思ってもいない(笑)とりあえず、いつも通り、案内されとけ』
と答え、アヤトを促す。

「アヤト、行こう!」
とアイナがアヤトの腕を掴み引っ張る。
アヤトがハルマに、
「じゃあ、いつもの所に行ってるからハルマよろしく」
アヤトがアイナに腕を掴まれ定位置のカウンターの席へ向かうため、ドアを出ようとする。

ハルマが2人に、
「わかった、ちょっと待っておいてくれ。アイナ、じゃあよろしく」
ハルマの言葉にアイナが
「わかった~」
と、返事をして厨房を出て行こうとする2人

そこでハルマが忘れ物に気づき、
「酒忘れてるぞ!」
そう言われたアヤトが
「おお!そうだった」
と酒を手に取り、アイナとカウンターに向かう

アヤトがアイナの連れられ定位置のカウンターの壁際の席へ

アイナがアヤトに、
「アヤトはいつもこの席だよね~。たまにはテーブル席に行ったらいいのに」
すると、アヤトは、
「ここが落ち着くんだからいいだろ」
と、アイナに対して答えると、
「とりあえず私もす~わろっと!」
アヤトの隣に座るアイナ

(いつもの事だがこっちの話、聞いてねぇな)
顔には出さずに思いつつ持参した酒を開けるアヤト

そんなアヤトの持ってきた酒に
「アヤト、それ何~?」
アイナが問いかける

「これは大吟醸って言う酒だよ」
そう言いながらアイナにビンを見せるアヤト
この店はラウンジなので基本的に洋酒しか置いていない
なので、異世界人のアイナは日本酒を見たことがないのである

アイナが不思議そうに、
「ダイギンジョウ?それってどんなお酒?」
と問うと、アヤトが
「こっちの言葉で日本酒っていうお酒だよ」
と答えると、また不思議そうにアイナが、
「ニホンシュ???」
と問うと、アヤトは、
「アイナも一度飲んでみ」
と、アイナに勧める。

そう言いながら、グラスがないことに気づき、アイナが、
『グラスなかったよね。取ってくる〜』
と、食器棚に向かい、グラスを2つ取って戻ってきた。

アヤトは、お酒を注いでアイナに渡す

そして、次は、アイナがアヤトのグラスにお酒をついで
「とりあえずお疲れ様。カンパイ!」
“カーン”
心地よい音と共に
アイナとアヤトは、グラスを合わせる

アイナがグラスを両手で包むように持ちながら一口、口に含む。
すると、アイナが、
「あっ、これ凄くおいしい!」
それを聞いたアヤトが、
「だろ?この日本酒は凄く口当たりが良くて人気がある酒なんだ」
と、お酒の説明をする。

アヤトとアイナが持ってきた酒で盛り上がっている所に
「二人とも、いつも仲がいいな」
とハルマがやってきて、
その言葉に、アイナが、
『でしょ?ワタシ、アヤトが好きだもん!」
と、屈託のない笑顔でそう答える姿に

ハルマがにこやかに、2人に向け、
「ハイハイ、ごちそうさま。うらやましいぞ、アヤト!」
と言うと、

「うらやましいってなんだよ」
と、そう返すアヤト

その時ハルマの後ろから
「うらやましいってなんですか?」
の声にハルマが
「ん?」
と反応する

「私というものがありながらうらやましいってなんですか?」
「エレナ、突然ビックリするだろ!」
突然ハルマに声をかけてきた女性
この女性の名前は、キサラ・エレナ。
異世界ラウンジでキャストをしているのだがほとんど厨房にいるハルマの傍にいて接客はしていない
本来ならありえないが、ハルマも傍にいてくれるのが嬉しくて何も言わない

「聞き捨てならない事を言ったからですよ」
エレナが少し怒り気味で言うと
「そういう意味じゃないよ」
と若干焦り気味に返すハルマ
「じゃあ、どういう意味ですか?」
更に食いついてくるエレナに対して
「いや、初々しくていいなって」
「私たちもそうじゃないですか!」
もはや何を言ってもだめだと諦めるハルマである

そんな二人のやり取りをみてアヤトが
「二人が初々しいって。ていうか夫婦だろ」
そんなアヤトの言葉に照れて顔が赤くなるハルマとエレナ

「なに言ってるだ、アヤト!」
『はい、これ作ったぞ!』
と、なかば誤魔化すように、ハルマがアヤトに、作った料理を差し出す。

アヤトは、
「これこれこれ!これを待ってたんだよ!」
アイナもそれを見て、
「何、これ~?」
と、ハルマが作った料理を、興味津々に見る。
ハルマは、アヤトとアイナに、
『アヤトが牛肉を持って来てくれたから、少し試して見たいことがあって、作ったんだよ。感想聞かせてくれ』

アヤトは、見たことがある料理なだけに、感想も何もないなと思いつつ、食べ始める。
そんなアヤトの横で、アイナもいつもと同じように、アヤトと一緒に食べ始める。

すると、アヤトが、
『お!上手い!これ、いつもと違う味だ!
少しピリ辛で、こう言う味付けもありだな!』
それを聞いたハルマが、
『良かった。アヤトが大吟醸を持って来てたから、日本酒に合う味付けに変えたんだよ。口に合ったなら、良かった』
と、安堵する。

アイナも、
『これ、すごく美味しい!これ何て言うの??』
と興味津々にハルマに聞く

ハルマが、2人に対して、料理の説明をする。
『これはな。牛肉のカルパッチョ〜ハルマ特製和風仕立て〜』
と一通り話し終えると、
アヤトがハルマに、
『いつもながら、料理のことと、女のことになると、生き生きしてるな(笑)』
と言うと、ハルマは、
『ほっとけ!好きなことだから、仕方ない(笑)』
と笑い合う2人

そんな傍らで、笑顔で聞いているエレナに、ハルマが、
『エレナも座って食べな?今まで、休憩してないだろ?』
と問いかけると、エレナは、
『じゃあ、そうする〜』
と、カウンター隅にある椅子を持って来て、アイナの前に、カウンターを挟んで座る。
すると、ハルマが、
『そこでいいのか??向こう側でもいいぞ』
と言うと、エレナが、
『私、キャストじゃないし。ハルマの隣がいい』
と言うと、ハルマは内心嬉しそうに、
『キャストじゃないって(笑)仕方がないな』
と、エレナの頭をそっと撫でる。
すると、エレナは、ハルマの肩に、頭を傾けて、もたれ掛かる。
そんな光景を、アヤトとアイナは、微笑ましく眺めながら、料理とお酒を楽しんでいる。

そんな時、ふとアヤトがアイナの方を見ると、アイナが、頰を膨らませながら、料理を頬張っている姿に、アヤトがそっと呟く。
「・・・小動物みたいだな」

それを聞き、口に物を頬張りながら、アイナが、
「可愛いでしょ??」

と言うと、アヤトが笑いながら、
「自分で言うな」

と言いながら、アイナのおでこを軽くコツく。

それをカウンター越しに、逆に今度は、温かい目でハルマとエレナが眺める。

そんな光景を横目に、再びキッチンに戻るハルマだった。

その時、カウンターの先から、黒髪ストレートに、ぱっつん切りの少女が現れた。
名は、『黒川コトリ』
種族は、人間。

「アヤトさん、こんにちは。今日もいらっしゃいましたね」
コトリが、レジ横に立つアイナに向って、
「アイナさん、今日の特別メニューは何ですか?」
と、しっかりと口を揃えて、アヤトを迎える。

アイナが、
「今日はハルマが特別に作ってくれた塩豚のカルパッチョ、と、グレープフルーツのジュースがオススメです♪」
と、明るくアヤトに提案する。

アヤトがにっこりと笑い、
「じゃあ、今日はそれでいいかな。」
と、アイナに頼んだ。

アイナが、
「ハルマ、カルパッチョ1つ、グレープフルーツジュース1つお願いします。お食事になるんですか?」
と、聞くと、アヤトは、
「うん、まずはそれでいいかな」
と、にっこりと笑い返した。

カトリが、
「300円になります」
と、アヤトに値段を告げると、アヤトが、
「あ、おっけー」
と、軽く言い、カトリにお金を払い、カルパッチョを待つことになった。

しばらくして、ハルマが出来上がったカルパッチョを運んできた。
アヤトが、
「ヤバい、これうまいな!」
と、一口食べて感動の声を上げる。
アイナが、
「ハルマの料理は本当に美味しいですよね」と、
にっこり笑う。

ハルマが、
「いやいや、お褒めの言葉ありがとうございます。でも、これはアヤトが持ってきてくれた塊肉が良かったんですよ」
と、言いながら満面の笑みでアヤトを見る。

アヤトも、にっこりと笑い、
「いやいや、ハルマがこんなに美味しい料理作ってくれるから、俺も料理買ってくるわけじゃないからね(笑)」
と、受け応えした。

ここで、異世界ラウンジには、他にも、様々な種族のキャストがいるが、その日は彼らはお休みだった。
ただ、その数日後に、驚きの依頼がやってくることになるのだが……。

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